「ただいま」



「おかえり」



ホテルの一室に入ってきて“ただいま”なんて、おかしいと思う。



けれど、私は事実ここに住んでいるわけだし、この人の言っていることも、あながち間違ってはいない。



週に何度か言う、違和感たっぷりの“おかえり”だけど、緩んだ口元は嬉しさの証。



すべての電気を灯してみたって、どこか薄暗い室内。



そのお陰で、顔を近付けなければ、私の表情の変化には気付かないだろう。



私は濡れた髪の毛をバスタオルで拭いながら、念のため顔を隠す。