「ったりめぇだ。俺でも初めてだしな……うし、こんなもんか?」

 悪魔の大行進のことだろうか。
 
 ぽす、と肩に手を置かれ、やっと鏡を見る。
 他愛無いやりとりでらしくもない緊張も解れたからか、鏡の中の自分は普段通り少しきつい目つきで自分を見返している。
 髪は綺麗に結わえられ、緩いシニョンになっている。
 零れ落ちる髪も計算されたかのように絶妙なバランスで… 
 
 正直、自分で結わえるよりも上手かもしれなかった。

 「…うん、ありがと。」

 ごきり、と肩を鳴らしたアレクは口角を上げた。

 「久々だったけど大丈夫そうだな。」

 「久々、って?」

 アレクが私以前に誰かと契約したなんて話は聞いたことがない。
 久々ということは他の精霊の子にでもやってあげたのだろうか。

 「てめぇ…覚えてねぇのか…!お前がやれっつったんだろうが!」

―全く記憶にない。 
 顔に出てしまったのか、アレクの顔がどんどんと怒りの色に染まっていく。

 「お前なぁ…!餓鬼の頃、同じ服装で同じ髪型で、初めて戦場に行くときに!指が震えてうまくやれないから俺にやれって無理難題吹っかけてきたの、忘れたのか!!」

 ここまで言われても、記憶に残っていない。
 初めて戦場に行ったとき、私は何をしていてのだろうか。
 もう、思い出せない。

 「ちっ…まぁ、いい。」

 いくぞ、と手を引かれた。
 振り払うことはしない、けれど握り返しもしない。
 それが当たり前であるかのように。