面白そうだ、研究に役立つかも。
 そんなことを考えていた数十分前の自分を殴り飛ばしたい。

 嫌な文章だった。
 苛立つものを見てしまった嫌悪感が半端ではない。
 幼いころの嫌な記憶も蘇ってくる。

 ファステッタ家は、代々巫女の最上位「聖女」を受け継いできた、所謂名家だ。
 歴史にも、ファステッタのものが巫女を統括するシステムを作ったことで名前が載っている程だ。
 待ちゆく人々にファステッタとはと聞けば、万人が聖女様の、と答える。
 歴史ゆえか、いつからか町衆の間では『神に愛された血』とすら呼ばれている。

―私は、ファステッタ家の生まれでは、ない。

 伝説の「悪魔の花嫁」に匹敵する能力があるから、とここに養子として引き取られたのだ。
 当時8歳だった私には身寄りもなく、生きていくためにも拒否することは出来なかった。
 それでもいいと、思っていた。

 だが、この本を見てしまって。
 「彼女」の身代わりを続けてきた私にとって、それはもう受け入れがたい内容で。

 思わず乱暴に、本を机に叩きつけた。
 大きな音が書架中に響いたが、そんなことはもう気にならない。
 気にしている余裕すら、ない。

 「…悪魔の花嫁。アンダーウィンド。銀髪蒼瞳。」

 気になる単語を上げていけば上げていくほど、嫌な考えばかりが頭に浮かぶ。

 だがきっと、″そう″なのだろう。
 ここまで状況がそろっていて、違う方があり得ないと断言できる。
 子供の私に突き付けられた、悪魔の花嫁という単語も。
 あの蔑むような目も。
 これで納得が出来る。

―ユウレイカ・″アンダーウィンド″。

 「……っ!!」

 怒りに任せて、机上の書類を舞い上げたとき、背後から柔らかな声が響いた。