麗華さんの元夫――司の父親は、大きな企業の経営者一族の後継者だったそうだ。

したがって、息子たちは、大事な跡取り。

どうしても二人とも連れていきたいという彼女の希望が通ることはなく、さんざん話し合った結果、二人の息子を、夫婦が一人ずつ連れて行くことになったのだという。


「もちろん、司のことも大事だった。でも、下の子はまだ1歳だったから……」


6歳の子も、母親が必要だろう。

でも、1歳の子は、それ以上に母親を必要とする。


「だけど、司のことを忘れた日なんてなかった。
だから、すぐに分かったの。
『上条司』が16歳でデビューしたとき」


母親だと名乗り出たいのは山々だったけど、司は、自分の生みの親が御木本麗華だということを覚えていないかもしれないし。

そもそも、司には、父親が再婚して、新しい母がいる。

自分が名乗り出るのは、迷惑かもしれない。

そう思って、何も言えなかったのだという。