「前に、司が芸能界に入ったのは、『自分の存在に気づいて欲しい人がいたから』って言ってたじゃない? あの相手って、結局誰だったの?」


司が芸能界に入るきっかけになった、片想いの相手。

それが誰なのか、気になって仕方ない。


「それは……」


司は、少し真顔になって。


「言わないとダメか?」


と聞いてきた。


え?

なんで?

言いたくないの?

サラリと話してくれれば「そうなんだ」で終わる話なのに。

言いたがらないと、その人への想いを大事にしたいのかなとか、色々考えてしまうんだけど。


「……」


司は、完全に黙り込んでしまった。

部屋に、重い沈黙が訪れる。

リッティが草を食べる音だけが聞こえた。