「どうした?」


司が、黙り込むあたしの顔をのぞき込んできた。

瞳の奥が熱くなり、涙がこみ上げてきそうだったけど、あたしはグっとこらえて、笑った。


「お気づかい、ありがと!
そうだね、理想のシチュエーションに近かったよ。
『スタッフの前でファーストキス』なんてことにならなくて良かった!
ね、寒いから、もう戻ろ?
っていうか、あたし、先に戻るね! じゃっ!」


あたしは、即座に立ち上がって。

砂浜の上を、砂に足を取られながら、懸命に走った。


走りながら、涙が溢れ出して。

潮風に乗って、浜辺に散った。