君想い【完】



麗が否定し続けて気が付いた事が一つある。

さりちゃんは、もう僕たちとは違う場所にいる。
危ない世界に足をつっこんだ。

もうそれが分かった時点で僕は関わってはいけない人間になった。


「あたし、帰るから。あとはさりなと話しな!」


麗がジャケットを軽やかに羽織ると少し甘い香水の匂いがした。


「純?」

大きな黒い瞳を丸くしながら、ドアの隙間から少し顔を出して僕に問いかける。

さっきまでさりちゃんに対して冷たかった僕も、こんな可愛い姿を見ると思わず顔が綻んでしまう。

全部僕のものになって、あの頃の笑顔に戻れたらどんなに幸せだろう。

「麗と話したよ。」

「うん。純!あのね、」

「何も聞かないから。さりちゃんが何をしてても、どんな事をしてても、僕はずっとさりちゃんの味方だよ。僕は絶対さりちゃんを裏切らない。それだけは覚えておいてね。」

言いたいことを言って少しすっきりした僕は笑顔で部屋を出た。

僕の服にさりちゃんの部屋のココナッツの匂いが染みついた。
少しそれを邪魔するかのように麗の煙草の匂いもする。

服の匂いを嗅いで、さりちゃんの近い存在は僕なんだ。と感じている僕はバカだろう。

でもそう信じたい。