君想い【完】



「あ!中澤さりな。」

絵美の小さな声が背後から聞こえた。


中澤さりな。
という単語に敏感に反応してしまう僕。なんとも情けない。

すぐに後ろを振り替えると今日一度も目にしていない愛しのさりちゃん。

黒の長いロングコートに、サングラスをかけている。

それでもさりちゃんは分かりやすい。


この地元でさりちゃんの横を歩く奴は僕しかいない。でもそんなさりちゃんの横を悠々と、あの不審な女が歩いている。

黒のストライプのパンツスーツに黒のYシャツ。

昨日のスーツよりも怪しさを増している。

さりちゃんがかけているファッション用のサングラスとは違う、
明らか顔を隠したいというくらいの大きなレンズの高そうなサングラス。

印象に残るくらい長いストレートの髪を風になびかせながら

不審な女の吸っている煙草の匂いがこちらまで流れてくる。


昨日散々、あれは誰だとか攻めたけど

2人の空気が合いすぎて怖い。