ゆかの家まで僕はさりちゃんの大好きな歌を何度も歌った。
さりちゃんの手を握り、何度も何度も歌った。
それしか思い浮かばない。
「もう一回。」
蚊の鳴くような声で何度も言うさりちゃんのために
僕は何度も歌った。
あんなにうるさいトシも黙ったままで、
香代の頭を何度も撫でながら、
香代の涙を拭いてあげていた。
さりちゃんの気が狂いすぎて、
泣いているゆかにかまってあげられないのが残酷だ。
ゆかの家に着くと
泣きはらした顔でおばさんが出てきた。
目が真っ赤で、
腫れている。
「いらっしゃい。病院行って来たのね。祥吾くんのそばには今パパが行ってるからみんな心配しなくて大丈夫よ。あがって。」
頭をさげ、靴をそろえて家にあがる。
「こちらは?」
「祥吾の彼女で、僕の幼なじみです。」
「さりなちゃんね!ゆかから話は聞いてるわ。辛いでしょうけど、何も知らないのはもっと辛いことよ。ね?」
おばさんに手を握られ、さりちゃんは深く深く頷いた。
聞く覚悟が出来たらしい。


