「い、いや。何でもないよ」

 この『隼人くん』がどんな口調で喋る人なのか分からないけど。
 とりあえず男の子っぽい口調を意識して、この女の人に返事をする。

 私の返事を聞いて、女の人は少し訝しげな表情を見せる。

……やっぱり、知らない人の真似をするのは――無理があったかな?

「『何も無い』って、だったら朝から何を叫んでるの?」

 眼鏡を少し上げながら、その奥の切れ長の瞳をこちらに向け女性が至極まっとうな質問を私に投げかける。
 頭の中でこの場を切り抜けられるような言葉を必死で探してみるものの――

「いや、起きたら……その……顔! 顔がむくんでて!」

 そんな意味の分からない返答しか出てこなかったワケで。