奥手女子の恋愛事情

気がつくと、加賀美が何も言わずに

じっと私の目を見ていた。


最近たまに加賀美と話していると、

そういう事がある。

加賀美の黒い瞳と目が合うと、

胸がドキドキして

どうしていいか分からない。



「な、なに？」

まっすぐな視線に耐えられず、言った。


「青井の笑顔って貴重だよな。

中々見れなくて。」


ふっと加賀美が笑った。


「そ、そうかな？」


思わず頬に手を当てる。

そんなにいつも無愛想なんだろうか。。



「部活で一緒にいる機会が多くて、

俺ってラッキーだよな。

笑ってる青井を他のやつより

多く見れる。」


まっすぐ私を見たまま、加賀美がまた微笑んだ。



え。ど、どういう意味？？



珍しいもの見れてラッキー、ってこと？

加賀美が言いたいことが分からない。



固まってる私に加賀美が近づいてきて

目の前が暗くなった。


「本当は他のやつに

あんまり見せたくないんだ。

青井の笑顔」


私の頬に当たっているのは

長身の加賀美の胸板。

よく響く声が加賀美の身体の中から

聞こえるみたいだ。


加賀美の体温があったかくて

気持ちいい。

背中に回る加賀美の腕が

ふんわり私を包んでいた。



これって抱き締められてる！？よね？

びっくりしすぎて動けない。


加賀美が優しく私を離した。

「でも、もっといつも笑った方がいいよ。

可愛いから。」

そう言った加賀見の唇が、軽く私の唇に触れた。



すごく近くでふっとまた黒い瞳が微笑んだ。


「俺、先行ってるな。」


加賀美は固まっている私を

その場に残して

体育館に向かって歩いて行った。