「今日はありがとうございました。何から何までしてもらっちゃってすみませんでした」

運転のため、せっかくの居酒屋なのにお酒我慢してくれたりと、たくさん迷惑かけてしまったなと感じていたわたしは、少し申し訳なさそうに笑ってみせた。既婚者で、しかも小学生の娘さんもいる慎司さんとは、もう会うこともないだろうなと思っていたわたしは「ほんとに楽しかったです」とだけ言って車を降りようとした。

そのときだった。

「かなちゃん....また会える?」

慎司さんの綺麗な細い指が、わたしの右腕を掴んだ。

やばい。

驚いて硬直したままの体が、右腕を強く掴んだ手の温もりでほどけていく。

やばい。

触れられているのは右腕だけなのに体全体が熱くて、息が苦しくて....どうしようもなくなって、わたしは慎司さんの目を見た。

やばい。

真っ直ぐにわたしを見つめる目が、「あなたのことが好きです」言っていた。

自惚れかもしれない。でも少なくとも目が合ったその瞬間は、そう思った。怖気付いてしまうほどの真っ直ぐな目。目力があるわけではないけど、体が動かない....動いてくれない。

やばい。

やばい。

やばい。

やば....

気付いたら、慎司さんとキスをしていた。