「着いたよ」

趣味の話もそこそこに、車を降りた。衝撃の事実を知ったわたしは混乱した頭のまま、先に降りて 歩き出していた慎司さんを追いかけ、タバコに火を付ける背中を複雑な気持ちで見つめてた。

慎司さんが連れていってくれたお店は赤提灯の居酒屋。わたしが大好きな雰囲気の居酒屋さんだ。排気口からは焼き鳥の良い匂いがして、中ではおじさん達がわいわいやっている。きっと慎司さんは、わたしがバーでビールを頼んだことを覚えててここに連れてきてくれたんだと思うと、ちょっと嬉しかった。いざ店内に入るというとき突然思い出したかのように、「におい付いちゃうとあれだから」と言って、わたしのコートをさりげなく受け取って車内に入れてきてくれた優しさも、同年代の男性ではなかなか味わえないキュンキュンだった。

お店では色んなことを話した。
さっき言っていた19歳のときにできちゃった結婚をした話や、奥さんの実家の話。長女の娘が最近やたらと父っ子で困る話とかいろいろ....でもやっぱり話題は全部家族のことで、ちゃんと家族のこと愛してるんだなと感じた。

同時に、奥さんや子供たちが羨ましいと思った。

普段 職業柄、人の話を聞くことの方が多いという慎司さんは、意外とお喋りな人だった。なかなか止まらないマシンガントークをしながらも、わたしのグラスが空けば飲み物頼んでくれるとことか、常につまめるものがテーブルの上にあるように気を使ってくれてるとこ。たまに絡んでくる酔っ払いのおじさんを上手くかわしつつ、場の空気を壊さないようにしてるとこなど、慎司さんの大人の余裕をたくさん見ながら、わたしはただただ相槌を打ちながら 話を聞くことしかできなかった。

「そろそろ帰ろっか。OK?」
「うん!!美味しかったー」

敬語も自然と取れてしまったわたしは、その日慎司さんに奢ってもらい、ひとり暮らししているマンションの下まで送ってもらった。