「すみません、遅れました。」
「ううん、寒くない？」

そう言いながら車の暖房を強める手はやっぱり綺麗で、わたし手フェチなのかな....なんて考えながら、着ていたコートを膝の上に折りたたんだ。その日はここ最近でも特に寒い夜で、わたしが車に乗るとき連れてきた 冷たい外気に触れた慎司さんは、「さむ」とだけ呟いて車を進めた。

仕事場で、しかも一度しか会ったことない慎司さんは、バーにいるときよりもラフな格好をして新鮮だった。ちょっと高そうな車にそわそわしながら車内を見渡す。綺麗な車内にはゴミもなく、窓に指紋もついてなかった。なんだか落ち着かない。

「あの、慎司さん。潔癖とかですか？」
「ん？あー、車？車ぐらいしか趣味がないから綺麗にしてるだけ」

ほう。車が趣味の人ってめちゃめちゃモテてるか、そんなモテないかの両極端に分かれてる傾向にあるからな。岡安データだけども(笑) でもきっと....いや絶対慎司さんはモテてるはず。やっぱり彼女いるんだろうな。

「車が趣味なんだ。じゃ 彼女さんとかさ、車ばっかり構っちゃ嫌だーなんて言うでしょ？」
「あんま言わない。てか奥さんだけどね。」

....へ？

「奥さん？え？既婚者？」
「うん、かなちゃんぐらいのときに」
「１９歳で？」
「まぁ、できちゃった結婚で今は２人いる」

....はい？

「え、お父さん？え？え？え？」
「そう。平日はちゃんとお父さんしてる」

ちょっとまって。軽い気持ちで聞いたのに、返ってきた答えが重すぎて笑えない。だって既婚者ってことは、今してることって浮気なんじゃないの？まぁ、彼女いるとしても浮気だけど。でも....不倫？法律触れるくない？いや、好きって言われたわけじゃないし。そうゆう関係でもないし。ただご飯食べるだけだし。

衝撃の告白にわたしの頭は混乱していた。
そんなわたしの状況なんか知るはずもない慎司さんは、大好きな車の話をしだした。そんな内容なんか頭に入るはずもなく、ただただ揺れる車内で愛想笑いを繰り返していた。