慎司さんは強い。

人に媚びないし、自分をしっかりと持っている。決してぶれることはないし、周りを巻き込む力も持っている。今までの男性とは違うものを感じる。いつもは無表情だし何考えてるかわかんないけど、考えてたことがまとまると喋り尽くすまで口が止まらないところとか可愛いと思う。できちゃった結婚の奥さんとはあまり上手くいってないらしいけど、記念日にはバラなんか買っちゃって。不器用で、ぶっきらぼうで、無愛想な割にはキザなことやりたがる。可愛いの。とりあえず可愛い。甘えん坊とかの可愛さではなく、可愛いの。わたしやっぱり慎司さんが好きなの。止められない....というか、止めたくないの。

慎司さんは強い。

でもね、こればかりは仕方ないで片付けられない。「あなたのことが好きになりました」「はい、そうですか」では済まされない。もう、疲れたよ。

慎司さん....あなたは強いから、わたしがいなくても大丈夫でしょ?解放してあげるから、解放して欲しい。




わたしはもがいた。必死にもがいた。慎司さんの腕の中で....涙でぼやける視界の中で。力では勝てない....そう思った。だから嫌だと伝えた。何度も伝えた。

そんなとき慎司さんが抱き締める力を強めた。


「かなを失いたくなくて必死だよ、おれ」


顔は見えなかったけど、悲しそうな声をしていた。いつもはどっしりとした背中も、かすかに震えている。そのとき わたしはやっと気付いた。

慎司さんは強くなんかない。
わたしとおんなじ....
強がっている弱虫だ。