「何飲む?カシス?」
「ビール」

当時19歳。
大学で出来た友達のバイト先に顔出してみようとふと思った夜。入ったバーでわたしはどうすればいいからわからず、とりあえずカウンターに腰掛けた。

カウンターの向こうにいる少し強めな男性はカシオレを勧めてくれたが、ジュースのようなお酒があまり好きではないわたしは「当たり前でしょ」みたいな顔をしてビールを頼んだ。

「っ....おもしろい女だな!!」

彼はくしゃっとした笑顔でそう言って、おしゃれなグラスにビールをそそいで、さっとそれを差し出してくれた。

突然、おしゃれなバーには似合わないフランクな言葉をかけられたわたしは、拍子抜けした表情で小さくお辞儀をした。

「ひとりでここに来た女性の方に、ビールを出すの初めてです」
「じゃ、お兄さんにとってあたしが初めての女ですね」
「そういうことになりますね」

20代後半の男性から感じる色気と、お店の雰囲気に酔いながら、顔とは不釣り合いな彼の細いの指を眺めていた。

小さなことから始まったあなたとの会話。
そのときからもう、わたしはあなたのことが気になっていたのかもしれない。