暑い夏も終わりに近付き、少し肌寒い夜。久しぶりに慎司さんから電話がかかってきた。

「おはよう」
「夜の11時ですが(笑) お仕事は?」
「今日は休んで友達の結婚式。さっき二次会終わってホテル着いたところ」

お酒も入っていて少し眠たそうな慎司さんは、珍しく甘えてきた。

「かな、会いたい」

「かなのこと抱き締めたい」

らしくなく甘い言葉を連発する慎司さんに違和感を覚えたわたしは、なんだか胸騒ぎを感じた。

「どうした?なんかあった?」

いつもツンツンした返事しかしない分、今回は優しく、微笑みかけるように尋ねてみた。するとさっきまでぐでぐでに酔っ払っていた慎司さんが、呼吸を整えこう言った。

「巻き込んで....ごめん」

慎司さんの声は小さくて、今にも泣き出しそうな かすれた声だった。

あぁ、そうか。慎司さん、わたしのこと巻き込んだって思ってるんだ。当時未成年だった女の子を、自分の欲望やいろんなものに巻き込んでしまったと....自分が悪いと思ってるんだ。

そんなことないのに。わたしが勝手に好きになって、勝手につらい思いして、勝手に忘れられないだけなのに....


慎司さんのことを好きになって、良いことなんかひとつもなかった。

確かに美味しいお店を教えてもらったり、一緒に楽しい時間を過ごすことはできた。でもわたしと慎司さんが親しくするということは、周りを不幸にしてしまうということに等しかった。慎司さんだって完璧な人間ではない。苦しむこともあるし、悩むこともある。わたしがこの恋を続けることで、慎司さんまで苦しめてしまっていたんだ。



この恋を、終わらせなきゃいけない....



「慎司さん。会いたいです...会って話がしたいです」

震える声を一生懸命隠しながら呟いた。慎司さんは少し間を置き「また連絡する」といって電話を切った。
混乱した頭を落ち着かせるために、携帯をおいて 洗面所で顔を洗った。なんとか答えなんかないけど、考えなきゃ。いくら悩んでも正解にたどり着けないとわかっているのに、考え続けなければならない苦しみ...これ以上慎司さんに負担をかけないためにも、この恋を諦める。

それが、わたしが出した答えだった。