「かなー、うどん食べたい」
「え、わたしも思ってた。やば」
「以心伝心?ウケる」

広いキャンパスに響くような、大きな声で笑うこの女の子は遠藤千恵。高校から同じ教室で勉強している。よく遊ぶわけでもなく、性格も正反対なのに どこかウマが合うところがあって、ずっと一緒いる。千恵といると楽だから。

「今日も彼氏ん家?」
「うん、たぶーん」

千恵には1年以上付き合っている彼氏がいて、半同棲状態。わたしは24歳で未だフリーターの彼に不信感しか抱けないが、千恵は結婚のためにバイト代を貯めて、彼との将来をしっかり見据えていた。

自称大人は、子供にはまだ早いといっていろいろなものを制限する。実際、千恵の両親は可愛い一人娘をフリーターなんかに渡してたまるものか状態。「結婚なんかまだ早い」「そんなことまだ考えなくていい」の一点張りらしい。そんな回りくどい言い方なんかしなくても、子供はしっかりわかっている。千恵に大変な思いをさせたくないって思ってくれていることや、「遠藤さんとこの一人娘は....」という周りの反応を気にしてること。わたしや千恵が、もし両親の立場だったら必ずそう思うはずだし、当たり前のことだと思っている。
大人が子供に制限をかけることがよくないと言っているわけではない。ただ、子供である前に一人の人間として会話して欲しい。良いことは良い。悪いことは悪い。ただ素直な理由が欲しい。回りくどい言い方なんかじゃなくて、親が思う素直な思いを吐き出して欲しい。


そんなことを考えながら過ごす日々の中で、わたしは20歳を迎えた。

「慎司さん、20歳になったよ」

慎司さんの都合を考えると、こちらからは電話出来ないのでメールをいれた。慎司さん....誕生日プレゼントくれるかな。

「岡安!!千恵ちゃん!!こっち空いてる」

爽やかな笑顔で手を挙げている悠介くんは、相変わらず人懐っこい顔をしている。

悠介くんの部屋に泊まったあの日から数週間。エッチしたことは二人だけの暗黙の了解になっていた。わたしは誰にもそのことを言っていないし、悠介くんも態度に出さない。でも2週間前、悠介くんからされた告白は断った。付き合う前に、そういう関係になっているのに、今更彼女になんかなれなかった。なにより悠介くんと付き合ったとしても、慎司さんのことが忘れられないことは目に見えていて、それが悠介くんを傷付けてしまうなら 付き合う意味が無いと思ったから....
それからは気まずくなったりとかの変化もなく、いつもどおりわたしの二の腕を不意に摘んできたりする。大好きな友達の一人だ。