「岡安、腕は首」

静かな部屋の中で揺れる視界が、上手く悠介くんを捉えられない。言われるがまま自らの手を悠介くんの首の後ろで組むと、悠介くんは抱え込むようにわたしの体に抱きついた。慣れてることを匂わせる悠介くん。「良かった、悠介くんちゃんと気持ちよさそう」なんて上から目線で行為を受け入れていた。
お互いラストを迎えそうになったときだった。

「....かな。かな」

ダメ。

やめて。

そうやって呼んでいいのは慎司さんだけ。慎司さんからしか呼ばれたくないの。

「やっ....やめて」
「かな。かな。かな」

慎司さんから呼ばれる名前を、悠介くんの声で聞いている違和感。お酒で洗脳された頭の中は、それさえも快感に変えてくれた。その快感は涙に変わって目尻から溢れる。それを拭いながら、悠介くんはわたしの名前を呼び続ける。

やめて、聞きたいのはあなたの声じゃない....



朝10時。とてつもない体のだるさに襲われて目が覚めたわたしは、悠介くんが目覚める前に部屋を出た。
昨日作ったオムライスとわかめスープの食器を洗って、ある程度部屋を片付けたあと、オートロックだから大丈夫かな なんて考えながら鍵も閉めずに駅へ向かった。電車に乗り、お昼からの授業休もうかなと考えた。お風呂に入って、もうちょっと寝て....頭の中で計画を立てながら携帯の電源をつけると、慎司さんからメールが来ていた。

「今夜の客は、美人が多いです」

そう表示された画面をギュッと胸に押し付け、眉を潜めた。