慎司さんと出逢って半年が過ぎた夜。3時間ほど慎司さんと電話する機会があった。

内容はいつものようにどうでもいいことだけど、会話しながらやっぱり慎司さんのことが好きだな と再確認していた。

慎司さんの話を聞きながら、ふと 惹かれている理由が分かった気がした。慎司さんの中の影に惹きつけられていた。本能に素直になるって慎司さんみたいな生き方を言うんだろうとなと感じられるほど真っ直ぐな考えをもっていて、どんなに理不尽なことを言っていても慎司さんが言えば すべて理屈が通っている気がして。でもどこか理解できなくて。でも そこがわたしにとっては すごく魅力的に見えて....

奥さんの話になると口が止まらなくなるところとか、すごく素直だなとも思う。嫉妬で苦しくなるけれども、それ以上に奥さんみたいにわたしも愛されたいとさえ思ってしまう。

わたし、慎司さんの何でもないのに....慎司さんにとってわたしって何なんだろう。でもそれを聞いたら 慎司さんが嫌がると思うから聞かない。きっと、めんどくさがられる。

今以上にも今以下にもなりたくない。
これ以上近付いたら離れなきゃいけなくなったとき、離れられなくなる。地味に忘れられなくなるぐらいなら慎司さんを体で覚えなければいい。だから、会ってもエッチはしない。そうしないと保っていけない。

わたしの中には友達の前で普通の顔してる“岡安"と、らしくないねと言われる“かな"が住んでいる。慎司さんの前で出てくる“かな"は嫉妬深くて、我が儘で、傲慢で....でも最近“かな"を抑えていた“岡安"にもガタがきて、慎司さんに女々しいと思われないかビクビクしている。そうやってビクビクしているのも“かな"なんだけど....


この想いが付き合いたいとか結婚したいに繋がるかどうかは、はっきりとは分からない。前に慎司さんが、恋愛には一緒にならない愛情の酌み交わし方だってあると言っていたのも、今なら理解できる。でもその頃まだ19歳のガキのわたしには、不倫を純情だと受け止めることが出来なかった。だからこんなに苦しんでいた。

悔しいけど、やっぱり そうゆう関係になってもいいと思ってる自分がいることは否めない。想いを消そうとメール削除したって、どうにもならないこと分かってるくせに。馬鹿みたい。

慎司さんの心も体も、頭の中までわたしでいっぱいには出来ないだろうか....なんて真剣に考えたりもした。でもやっぱり答えは見つからなくて最後に虚しさが残るだけ。

こんだけ葛藤を繰り返しても、まだ慎司さんのことを好きでいられるのは、電話の最後に慎司さんがいう「またね」をもう一度聴きたくなるからだった。