「そうだね。君、料理はするの?」

「基本、休日は自炊ですよ。平日は半分くらいお弁当を作っていきます。買ってきた物だとどうしても野菜不足になるでしょ」

「へえ、それはちゃんとしてるね。料理は得意?」

「そんなに得意でもないけど、やっぱり手作りのご飯は元気の出方が違うでしょ。味はともかく栄養があるでしょ」

「ふーん。じゃあ、今度の君の料理が食べたいな」

坂井先生がたずねる。

「私の料理?」

「うん。君の家で君の手料理を食べてみたいな」

ついにその質問がきたかと咲子は思った。男の人と付き合っていたら、そんなことになるのは自然なことだろう。

「うちのアパート、狭いですよ」

「構わないよ。女の人の一人暮らしだろう。そんなもんだよ。君ん家も見てみたいし」

「先生のお家に比べたら、私の部屋なんて質素もいいところですよ。二人の人間が入ったら手狭ですよ」

坂井先生は元家族と住んでいたマンションを出て、今は市内の1LDKの賃貸マンションに一人で住んでいる。

「じゃあ、僕ん家に来る?」

「先生のお家に?」

「うん。男の一人暮らしだからそんなに調理器具もないけど、僕が何かごちそうするよ」

「先生、料理するんですか」

「そりゃ、学生時代とインターン時代が長かったからね。簡単なものなら作れるよ」

「へえ。それは感心しますね」

「良かったら今晩招待するよ。今度いつ休みが合うかわからないしね」

「今晩かぁ」

「何か予定ある?」

「いいえ。特にないですけど。大丈夫です」

先生の家が見られるという好奇心に抗えない。

「OK。じゃあ、決まりだ」