「それは良かった。今日は参拝ですか」
「はい。時々元気をもらいにこちらへ来ているんです。いわゆるパワースポット参りというやつです。先生は?」
木に抱きついていたのも、そういうわけがあるというのもわかってもらえただろう。
「娘のピアノ教室がこの近くにあるから、送りがてらふらっと寄ったんですよ。レッスンが終わって二人でちょっと寄り道をしました。娘は今、トイレに行ってます」
「そうだったんですか。毎週娘さんの送り迎えをしているんですか」
「いえいえ、とんでもない! 今日みたいな非番の時でないと無理ですよ。妻も働いていますし、いつもはおばあちゃんにお願いしています」
「ああ、先生のお休みは不定期でしたものね」
「はい」
そこへ、「お父さーん」という子どもの呼び声が聞こえた。社務所の方から女の子が駆けてきた。玉砂利を踏む音が聞こえる。
女の子は坂井医師の横に立った。
「娘です」
「こんにちは」
咲子は笑顔を作って挨拶をした。
女の子もぺこりと頭を下げて挨拶をする。女の子は父親に似るというが、この子はどちらかというと奥さんの方に似ているみたいだ。
彼女の傍で、先生が「患者さんだよ」と言う。
それから彼は会釈をすると、娘の肩を抱いて拝殿に方へ向かって行った。


