大樹に頬を寄せて目を閉じていると、背後から声が聞こえた。
「丹羽さん」
聞き覚えのある懐かしい声に振り向くと、そこには坂井恭輔医師が立っていた。今日の先生は普段着姿だ。マドラスチェックのネルシャツにチノパンという出で立ちで、病院で見る印象とは違う。
「坂井先生!」
咲子は思わず彼の名前を呼んだ。こんな所で彼と再会するなんて驚きだ。咲子は自分の目を疑う。
しかも、妙なところを見られて、ちょっと恥ずかしい。
「ああ、やっぱり丹羽さんでしたね。お久しぶりです」
咲子の顔を見て先生が言う。
「お久しぶりです、先生。その節は大変お世話になりました」
「あれからお体の調子はどうですか」
「お陰様で快調です」
先生がにこやかに微笑むから、咲子の顔にも自然に笑みが浮かぶ。この一ヶ月間、ずっと恋しかった笑顔だ。


