病院を退院して現場に戻ったら、これまでどおりの日常生活が始まった。毎日同じ仲間と顔を合わせ、同じことを繰り返す。特に嫌な出来事もなく平穏だけど、単調な毎日。

坂井医師はどうなのだろうか。毎回、異なる症例の患者を担当して、変化に富んだ日々を送っているのだろうか。人命を救うという崇高な職務にやりがいを感じているのだろうか。

そんな思いが頭に浮かんで咲子はハッとした。

何であの人が出てくるのだろうか。あの人はたった10日間お世話になっただけの主治医ではないか。彼と言葉を交わしたのは数回にすぎないというのに。

自分でも呆れた。

そんなにあの人は良かったのだろうか。

良かったかどうか自問するなら確かに彼は素敵だった。それは正直に認める。

あんな人はまずいない。好感を持たずにいられない人だ。

けど、だからってあの先生のことを思ってどうなるんだろう。彼はもう会うこともない人で、すでに家庭もあるような人で……。

こういう場合は時が解決してくれるはずだ。このモヤモヤした思いも日が経てば自然に消滅するだろう。気がつけばいつ間にか先生のことなんて忘れてしまうだろう。

そう思うより他しょうがない。