「じゃあ、僕はこれで」 坂井医師が軽く会釈をして席を立つ。 咲子は我に返って会釈を返す。 スラリとした白い後ろ姿が店を出て行くのを見て、咲子は思った。 あの先生が住む雲の上の世界は、これまで彼女が通ってきた世界とは違ってバラ色なのだろうか。彼とその家族は豊かで洗練された生活を送っているのだろうか。 それとも、彼には彼なりの苦悩もあるのだろうか。 あの穏やかな笑顔の裏には一体どんな感情があるのだろうかと思った。