先生としゃべっていて思った。

あれ、医者ってこんなだったっけと。

昔、地元でかかったことのある町医者は、もっとジイさんでもっとえらそうだった。

食べたものを吐くようになって、医者にかかったら便秘が原因で流れが止まっていると診断された。

医者は「ただのフン詰まり」と身も蓋もない言い方をして、患者を返した。

健康だけが取り柄なので、医者にかかるのは高校以来久しぶりだ。

久しぶりにかかる医者は、これまで咲子が抱いてきたイメージと違った。

こんな社会的地位のある職業に就く人物が、咲子みたいな年下の女に、実に丁寧な口調で話す。敬語でゆっくりと話し、時には笑みを浮かべることさえある。

総合病院の医者は田舎の開業医と違って殿様商売ではないのだろう。

彼は江波さんに話す時も若い看護師に話す時も、丁寧で穏やかな口調で話す。

この人一体いくつなのだろうかと思った。30代に見えて実は40越えていたりして。

落ち着いた物腰に大人の余裕を感じる。

こういうタイプの男は工場にはいない。職場の年上の男性職員も、年相応に仕事がわかっていて面倒見もいいけど、こういうんじゃない。気さくなアニキって感じだ。