「でも、あの、それって……あなたのお嬢さんのことは?」
「僕と元女房は別れたんだ。もし僕が娘と暮らしたいなら、母親のもとから彼女を引き取るべきだ。三人がまた一緒に暮らす可能性はない。もっとも、引き取るには君にも一定の理解をしてもらわないといけないがね。今のところ、娘は母親といる暮らしが心地いいみたいだ。大好きな母方の祖母も近くに住んでいるしね。というわけで、僕と君が二人暮らしをするというわけさ。すまないが急に転がり込んだラッキーな物件情報だったから、君に内見してもらう前に決めてしまったよ。けど、絶対気に入るはずだ」
「先生、私……うれしくって何を言っていいかわかんない」
咲子はテーブルの向かいに回り、彼の首にかじりついた。
「……そうね、私もそのお部屋、気に入ると思う。あなたと一緒ならどこだって素敵なお家だわ。急いで今のアパートを解約しないと」
「是非、そうしてくれ」
彼は彼女の髪をそっと撫でた。
それから二人は部屋の灯りを落とし、たった1ピースのケーキにロウソクを立てた。マッチが硫黄の匂いを放ち、二人の顔がオレンジ色の光に照らされた。
これからもずっと、ケーキだけでなく部屋も何もかも、何かを分け合うのは咲子と先生の二人なのである。
【了】


