今年のクリスマスは殊更に冷える。

これまでクリスマスは特別な行事ではなかった。クリスマスだからといって特別何をするわけでもなく、仕事に行って帰ってくる普通の日を送ってきた。

咲子は今、坂井先生と付き合っている。だからといって、今年からいわゆるカップルがするイベントを二人でするわけじゃないだろう。だって先生には子供がいるから、実質的には所帯持ちのようなものである。きっと、クリスマスは家族と一緒に過ごすのだろう。

咲子の仕事はシフト制だ。同じラインにいる他のスタッフのスケジュールとの兼ね合いを見て、土日に出勤することもある。まあ、勤務形態について言えば医者の仕事と似ているかもしれない。彼女はグループリーダーだけど、彼女が休みを取る日は頼もしい右腕の清水さんが代わりにその役目を担ってくれる。

クリスマスイブの日はいつもどおりシフトを入れた。ラインの学生バイトや若い女子社員が休みを取りたがっていたから、人数合わせのために自分が出ることにした。それがリーダーの責任でもある。

ラインの上を次々と流れてくるケーキのスポンジを見ながら、今宵どれだけの人が我が社のケーキを消費してくれるのだろうかと思った。ふと彼女の胸に寂しい感情が湧いた。一瞬のことである。
今宵は社販でショートケーキでも買って帰って、ちょびっとだけクリスマス気分を味わおうかと思った。この時期は工場の社員用出入り口付近で、クリスマス用社内販売を行っている。侘しさもいくらか消えるかもしれない。

たった1ピースしか買っていないのに、販売員は箱の中に小さなロウソクを入れてくれた。この時期限定のサービスだ。