ついに咲子と坂井先生は、二人の休みが重なる日に、新居を探しに不動産屋に行くことになった。

前日の夜、咲子の携帯へ先生から連絡が入った。

「ごめん。明日は内科の同僚が急用で休むことになって、当直を代わりにやらなきゃいけなくなったんだ」

回線の向こう側から先生が言う。予定変更のお願いだ。

「わかりました、先生。それは大変ですね。不動産屋さんにはまた今度行きましょう」

咲子は先生の仕事のことはよくわかっているつもりなので、彼の話を聞きいれた。

「ホント、すまない。都合がついたらまた連絡するよ」

そう言って先生は電話を切った。

先生からの再度の連絡はすぐに来るはずだった。今までそういうパターンだったから。

でも今回はどういうわけか、待てど暮らせど彼からの連絡は来ない。3日経っても一週間経っても彼からの電話はかかってこない。

これまで付き合ってきてそんなことはなかったから、咲子は少しだけ不安になった。彼女は先生のことを信じているから、あくまでも少しだけ。

きっと彼は仕事が立て込んでいるのだろうと咲子は思った。こちらから連絡してみてもいいけど、あまり彼を煩わせるようなことはしたくない。

でも、音沙汰なしの状態が8日目に突入した頃、咲子はしびれを切らして先生の携帯に電話をかけてみた。こんなに連絡が来ないのはいくらなんでも不自然だ。もしかして先生の身に何か起きたんじゃないかとすら考えた。