それからというもの、二人の関係はますます深くなっていった。

お互いの休みが合う時は、どちらかの部屋に泊まりにいった。夜勤明けの先生が、病院からそのまま咲子の所へ来ることもあった。

先生のマンションの洗面所には咲子の歯ブラシが置かれている。お互いの家に、相手の私物が少しずつ増えてきている。

週一回夜を共に過ごすのが当たり前になってきた頃、先生が咲子に一緒に暮らさないかと言ってきた。二人で暮らせるマンションを借りようと言う。いつものように、彼は咲子を膝に乗せて抱きかかえていた。

咲子はうれしくて迷うことなくOKの返事をした。彼の首にかじりついて、その胸に頬をうずめ、一つ屋根の下で暮らせる幸せを想像していた。

咲子は浮足立っていた。

女性向け通販雑誌をめくっては、新居に入れるカーテンやクッションを探した。ソファーはフランフランで見掛けた定番のやつしよう。キッチンのラグマットもタペストリーもシャビーシックで統一しようなんて考えているとたまらなく幸せだ。

毎日、好きな人の隣で眠る幸せを思うと、うれしすぎてどうにかなってしまいそうだ。彼と一緒に暮らせるのなら、毎朝早起きをして弁当を作るのも苦じゃない。夜勤で遅く帰ってくる彼のために、夕食を作って風呂を沸かして、なんて考えるとワクワクする。

例のごとく、工場のラインに立っていると、清水さんに機嫌の良さを指摘された。咲子の気持ちは彼女にはいつでもお見通しだ。

交際している相手がいることを話すと、その話を素直に喜んでくれた。咲子に先んじて幸せな私生活を送っていた彼女には、同僚の幸せを祝福する心の余裕があった。もし清水さん自身が今シングルだったとしたら、同僚が病院で会ったことのあるイケメン医師と付き合っているなんてことを、心の底から祝えたかどうかわからない。たとえそれが強い信頼関係で結ばれた職場の先輩であったとしても、女心ってそんなに寛容じゃない。

社員食堂で一緒にランチを食べている時も、清水さんは咲子の他愛ないノロケ話を聞いてくれた。彼女は笑顔を浮かべて、年下の先輩の長い話に相づちを打ってくれた。