「……………これは」


「お前、こないだの事件のこと知ってるか」


宗形の問いに、陽希は頷く。


「確か、都内に住む女子高生が、森の中で死体として発見された、でしたっけ」


「そうだ。今俺たちが抱えてる案件が、それなんだが……」


「………厄介な感じですか?」


「そうなんだよ……」


うんざり、という表現が、これほどふさわしい姿はないだろう。あまりにも肩を落としているからか、その姿は小さく見えてくる。


「それでな、その被害者なんだが…」


「宗形警部」


今まで黙っていた石原が、ふと口を挟んだ。見れば、その視線はまるで、宗形を咎めるようだ。


「……なんだ、石原」


「部外者に事件の内容を話す事は禁じられています。宗形警部ともあろう人が、知らない訳では無いでしょう」


「………だから、何だ」


うんざり、ともげんなり、ともとれる宗形の態度に、痺れを切らしたのだろう。石原は、その細長い目を吊り上げて、声を荒げ始めた。


「宗形警部は、失礼ながらもこの、まだ成人もしていない少年に事件の内容を話してしまっています!もしこの事を私が本部に言えば、貴方は謹慎処分ではすまされないんですよ!」


「じゃあ、言わなきゃ良いだろ」


「警部!」


きゃんきゃん、と甲高い声に、思わず耳を塞いでいた陽希は、はたと宗形を見つめた。


「……宗形さん」


「何だよ」


「……話してなかったんですか?」


「それがどうした?」


「………」


それでなんとなく察しがついた。


おおかた、事件の捜査に行き詰まった宗形が、気晴らしのように陽希の元を訪れたのだ。石原は、なぜこんな少年の元を訪れたのか、という疑問を抱いていたところに、事件の内容まで話そうとしている宗形を見て、何かがぷつりと切れたのだろう。