彼の両親は海外にて仕事をしており、最近では電話で声を聞く程度にしか触れ合いが無い。母方の叔父が、勤めている仕事の関係上手放す事になった屋敷を貰い、そこで独り暮らしをしている。
実際には、独り暮らしどころか、大層な大所帯ではあるが。
同居しているのは、先ほどの雑鬼達や、何故か居座った神の眷属。たまに訪れる客に、神がいたりする。
そして、そんな彼が学校生活とは別に、家業として行っている事がある。
今日も、そんな家業に望みを託さんがために、様々な客が彼の家を訪れる。
* * *
この和風の家には似合わないような、後から取り付けたインターホンが来客を告げるのは、ごく稀だ。故に、インターホンが鳴ると雑鬼達が騒めきたち始める。
自分の部屋として使っている離れに籠もっていた陽希は、犬もどき、もとい駿尾(シュンビ)の鳴き声を耳にした。
インターホンの音は、この大きすぎる屋敷の隅までは届かないので、こうして雑鬼達が教えてくれたりする。
離れと母屋を繋ぐ渡り廊下に出ると、普通の犬に変化した駿尾が客人を連れて歩いているところだった。
客人は、どうやら2人。しかも、片方は見たことがある御人だ。
駿尾が、2人を先導して母屋の方へ入って行くのを見てから、陽希も母屋へと向かう。
時折すれ違う雑鬼達が嬉しそうに飛び跳ねているのを見ると、どうやら菓子付きらしい。
母屋の一番南にある居間の襖をゆっくりと開ける。そこには客人2人と、両前脚を交差させて伏せている駿尾がいた。
駿尾が首をこちらに向けて、わんと鳴く。大方、『後で何か美味い物を寄越せよ』とでも言いたいのだろう。
駿尾が居間を離れて行くのを見送ってから、客人と机を挟むようにして座る。
「……お久しぶりです、宗形さん」
「変わってねぇみたいで安心したぜ、陽希」
「宗形さんは、少し太りました?」
「ばか言え、俺は標準だ」
30代後半から40代前半くらいの、野武士のような顔をしている男。名を、宗形 篤也(ムナカタ アツヤ)という。
陽希の家業を頼りにしてくる客人の中でも、付き合いが古い人物の1人だ。
「宗形さん、奥さんとお子さんはお元気ですか?」
「元気過ぎて、喧しいくれぇだよ」
「良かったじゃないですか」
「………お前、ホントに変わってねぇな」
「誉め言葉として受け取っておきます」
