犬もどきは、家主の傍まで近寄ると気遣わしげに顔を覗き込む。


『……どうしたのだ、陽希よ。顔色が優れないようだが』


「いや、ちょっと夢見が……」


悪かった。それも、すこぶる悪かった。


『……陽希よ、今日は学校に行くのを止めたらどうだ』


「や、行かないと色々マズいし」


犬もどきが不服そうに三本の尾を揺らす。尾が順に畳を叩くたびに、小さくぴしりと音がした。


2つ首の鴉もどきも家主の傍に来ると、羽をばさばさとはためかせた。


『……陽希よ。お主、食欲はあるのか』


「………………………あるとも」


『間がありすぎだ。食欲なぞ、ありはしないのだろう?』


鴉もどきは家主を見つめる。その視線は、言葉よりも多くの事を語っていた。


鴉もどきと犬もどき、更には大小様々な雑鬼達から、口々に休めと言われ、家主は仕方なく学校に行くのを諦めた。







   *   *   *   


安倍 陽希(アベ ハルキ)、高校2年。男。


かの偉大なる大陰陽師、安倍晴明の血族に連なる者だ。だが、血族とはいえ、彼自身は申し訳程度に存在する、はるか昔からの分家の出だった。


本家の長子は、確か土御門を名乗っていたはずだ。幼い頃は、共に遊んだ事もあった気がする。