*   *   *   


す、と浮上した意識が、まだ重たい瞼を持ち上げる。

「…………夢…」


やけに嫌な夢だった。


じっとりと湿った肌に張り付いた髪を鬱陶しげに払ってから、のっそりと布団を抜け出した。


今どき珍しい和風の我が家には、あろうことか、人外の者も住み着いている。


例えば、物が意志を持って動くようになった付喪神。例えば、闇に紛れて動く、小さな異形。これらをまとめて、『雑鬼』と呼ぶ。


冷たい渡り廊下を素足のまま歩き、木目に沿うようにしながら、母屋の中でも一際大きい居間へと向かう。すると、大抵行き交うのが雑鬼達だ。


昨夜、だいぶ賑やかにはしゃいでいたのだろうか。何匹か、千鳥足の奴がいる。


呆れて物も言えない家の主に、雑鬼達はきゃっきゃっと楽しそうに声をかけた。


「おー、おはよう!あれ?おはようで合ってるよな?」

「合ってるぞ。何だ、まだ酒抜けてないのかー?」

「夕べは良く眠れたかー?陽希(ハルキ)ー?」



口々に声をかけてくる雑鬼達に、おはようとだけ返して、居間の襖を開ける。少し勢いのあったそれは、たーん、と大きな音をたてた。


すると、居間の中には、これでもかと言わんばかりの数の雑鬼達が思い思いの体で寛いでいた。


普通の蜘蛛の二倍はありそうな体に、3つの目玉が付いたもの。2つ首の鴉のようなもの。更には、体躯は犬の様だが尾が三本あり、器用にお座りしながら酒を煽っているものまで。