口喧嘩をし合っている陽希と駿尾を見ていた付喪神は、おや、と呟いた。
『陽の坊、陽の坊』
「何?じいさん」
『お主、そんな色の浴衣なぞ持っておったか?』
本体である鏡から生えている、枯れ木のような細い腕で浴衣の端をつままれる。思わず苦笑いをして、駿尾を見つめた。
「これ、駿尾がわざわざ人に化けて、買って来てくれたんだよ」
『なるほど。犬ころも、なかなかやるの』
『犬ころとはなんだ、犬ころとは』
『細かいことは気にするでない』
『細かいことはないだろう』
『些細な事じゃ。忘れよ』
『断る。3日は覚えておく』
『しつこい者は嫌われるぞ。知らなんだか』
『そんなものは知らん』
『横暴だのぅ』
『そっちこそ』
駿尾が選んできたのは、深い緑に鮮やかな黄緑で不可思議な模様が描かれたものだった。
細やかながらも繊細で美しい模様が施されているこの浴衣を、駿尾は一目惚れして買ってきたらしい。
