あやし、あやかし




笙祗は最後のあがきのように俯いたが、それも諦めたのだろう、すぐに顔をあげた。



『陽希よ、駿尾が呼んでおったぞ』


「駿尾?」


『左様。付喪のじじいが見つかったらしい』


「………あぁ!」



そういや、頼んでいた。付喪のじいさんを探してくれ、と。



「笙祗、駿尾とじいさんは?」


『裏の蔵の前に居る』


「ありがとう!」



先程までふらついていたのが嘘のように、軽やかな足取りで離れを出ていった陽希を見送った笙祗は、屋敷を囲む塀の向こうに視線を移した。



『……………?』



笙祗は翼をはためかせ、塀の向こうへと飛び立った。








   *   *   *   


「駿尾!付喪のじいさん……!」


息を切らしながら蔵の前まで走った陽希を出迎えたのは、不機嫌さから半眼になった駿尾と、待たされて不機嫌さを顕にしている鏡の付喪神だった。



先に怒りを表したのは、鏡の付喪神。



『遅かったではないか、陽の坊(ハルノボウ)。わしのような老体を待たせるとは、なんという無礼者か!』


「ごめん、付喪のじいさん。ちょっと体調崩してて…」



その言葉に反応したのは、半眼になっていた駿尾だ。



『体調を崩していた、だと!?陽希、なぜ寝ておらぬのだ!寝よ!疾く眠るが良いぞ!』


「……駿尾。それ、笙祗にも言われた」


『そのような返答は求めておらぬ!!早く眠るのだ、さぁ!!』


「いやいや、まずは付喪のじいさん……」


『後でも良かろう、そんなことは!』


「良くないんだけど……!」