* * *
―――見ツケタ。
見ツケタ、見ツケタ。
探シモノ、ヤット見ツケタ。
逃ガサナイ、逃ガサナイ。
ズット、ズット、探シテタンダ―――!!
* * *
「――――っ!!」
がばぁっ、と右腕1つで起き上がった陽希は、汗で濡れた自分の身体を見て、ぐったりと体の力を抜いた。
「またか……」
左襟をぐいと引っ張り、胸元の風通しを良くする。他に人が居たら躊躇うところだが、ここには自分以外いないので、躊躇う事はない。
『いかがした?陽希よ。』
2つ首の鴉、改め笙祗(ソウギ)が、ばさばさばさっと羽をはためかせながら布団の横に舞い降りた。
不思議そうに首を傾げながら見つめている笙祗に、苦笑いをしながら何でもないよと告げる。
すると笙祗は、明らかに気分を害したようにそんな訳なかろうと返した。
『陽希よ、きちんと寝たのか?顔色が悪いままではないか。いかんぞ、人間は酷く脆弱なのだからきちんと休まねば』
「や、ホントに大丈夫だから」
漆黒の羽根を上手く使って、掛け布団を被せながら寝かしつけようとしてくる鴉をやんわりと断り、ゆっくり立ち上がる。
少しふらつきながらタンスに向かう陽希を、笙祗のニ対の目が見つめる。
『……陽希、また夢見が悪かったのか?』
「夢見、かな……。多分、ちょっと違うんだよね」
『何!?それこそ大問題ではないか!寝よ、今すぐに!!疾(ト)く眠るが良いぞ!』
ばっさばっさと羽を動かし、厳めしい口調で騒ぎ立てる笙祗。陽希はそんな鴉を肩越しに眺めて、喉の奥で低く笑った。
しばらく騒いでいた笙祗だったが、ぴた、と動きを止めた。
汗で濡れた和服から、簡単に着れる浴衣に着替えた陽希は、突然動きを止めた笙祗を、目を見開いて見つめた。
大きく開いていた両方の翼を、流れるように降ろした笙祗は、呻いているような声を出した。
「笙祗?どうかしたのか?」
『ぬかった…………!』
「笙祗?」
いったい、どうしたというのか。
笙祗は、小さく2、3呻くと、意を決したように陽希を見つめた。
『……陽希よ、すまぬ』
「え、何。どうした」
『忘れておった我が悪かったのだ、許せ』
「なんだよ、何に対して謝ってんだ…?」
