あやし、あやかし



あ、青信号だ。ブレーキを踏んだ宗形はしかし、大声をあげた。



「痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ!何しやがる石原ァ!!」



ガシッ、と、左腕を思いきり捕まれたのだ。



「………高校生?」


「そうだっつってんだろ、いい加減放せ痛ぇ」


「……………彼、高校生?」


「何回言わせる気だ、そうだっつの。痛ぇよ放せ」


「………………現役高校生?」


「だからそうだっつの。上司命令だその腕を放せ石原ァ!」



怒声を浴びせられて、ようやく我に返ったらしい。ぱ、と放された腕を擦りながら、宗形は舌打ちした。



消え入りそうな声で「すみません…」と告げた石原は、呆然としていた。



宗形は深いため息を吐いて、ひたすら前を見つめる。やっと見えてきた本庁を認め、見えたばかりだというのに「…帰りてぇ」と呟いた。