「小学生の時にな、神隠しに合ってるんだ、あいつ。まぁ、幸いにして3日程度で帰ってきたんだけどな」
「それ、ただ家出しただけとかじゃ」
「あいつの一族の目の前で、突然吹いた突風に巻かれたんだ。全員そういうのが視える奴らで、全員が口を揃えて『神隠しだ』と言った。警察も世話になってる一族だからな、『そう言うならそうなんだろう』と疑うことすらしなかったさ」
苦々しい表情で、宗形はいっそ清々しいほどに淀みなく話し続ける。
「とにかく、あいつは帰ってきた。しかも、自分の足で歩いてな。一族が診てから病院に、て時に、あいつの実の親父が気付いた」
あの時の悲痛な叫びは、今でも耳の奥にこびりついて離れない。
『陽希、その腕は……!』
人には読めない文字で。けれども余りにも歪んだ妖力を感じる、『呪い』だ。
息を呑んだまま動けなくなってしまった石原を、静かに視界の端に捕らえる。
赤信号に目を留め車のブレーキを踏んだ宗形は、ドリンクホルダーにある缶コーヒーを手に取った。陽希の家を訪れる前に買ったそれは、まだ少しばかり残っていた。
缶コーヒーを呷った宗形に、石原は問い掛ける。
「……あの少年、怖くないんですか?」
そんな目に合って。それでも、怪異に関わる仕事を選んで。
そう言った石原に、宗形は少し考えるようにしながら口を開き始めた。
「……多分、『怖いヤツら』と『怖くないヤツら』で区別してるんだろう。前にそう言ってたのを、聞いた気がする」
あと、と付け足した宗形を、石原はきょとんと見つめる。
普通にしてれば綺麗な奴なんだけどなー勿体ないなー、と取り留めのない事を考えながら、宗形は口を開く。
「あいつ、あれでも現役の高校生でな。探偵業は、まぁ、あれだな。暇潰し」
へぇ~……、と石原は行く先を見つめ、しぱしぱと目を瞬いて。それから宗形へと、勢い良く向き直った。
