「なっ……!」


まさに“絶句”。
玲央くんは言葉を失って、固まってしまった。

うん、まぁ。そのほうが都合がいいけどね。


「ちょっとでいいの」


玲央くんが、その“好きな子”とやらとする前に。

1番最初に“味見”をしてみたい。


出荷前のイチゴを味見するのは、生産者の義務であり特権でしょ?

悪い虫がつかないように、“幼なじみ”として、ずっと傍で見守ってきた私にはその権利があると思うの。


……我ながら、意味不明なこじつけだけど。でも、


「最初のひと口は私にちょうだい?」


目の前にあるこんなに美味しそうなものを、黙って誰かに譲れるほど私はできた人間じゃない。



「“練習”だと思って。」

「……。」

「大丈夫。ちっちゃい頃はしてたわけだし、あいさつだと思って」


玲央くんのママは帰国子女だから。あの頃は、何の疑問もなくあいさつが“ちゅーだった。

日常的すぎて、よく覚えていないのが残念だ。


「そういうわけで…」


固まったままの玲央くんにゆっくりと顔を近づける。


「いただきます――」