KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―




「何?今日は春斗も来たの?」

「あんたも暇ね」



軽い口調で、中から聞こえた声に、春斗さんが僅かに眉を上げた。


「失礼な。俺は忙しい中を上手く遣り繰りして、息抜きに来てるだけだ。暇なのはお前たちの方だろ?」

ちょっとおどけた口調で返した春斗さん。

その様子だけで、中にいる人たちが彼にとって気心のしれた人だって事がわかる。



店員さんが、春斗さんに道を譲るように脇に避けた。

その様子を横目で見つつ、彼は何の躊躇いもなく、慣れた様子で室内に入っていく。



さて、私はどうしたものか。


「何やってる?こいよ」

店員さんが避けてくれている前で、棒立ちしていた私の手首を、春斗さんの大きな手が掴む。


……そうでしたね。非常に不本意な上に納得がいかない事この上ないんですが、私に何故か拒否権はなかったんですよね。




「ちょっ……」

覚悟を決める前に、グイッと勢いよく中に引きずり込まれた。



「では、楽しいひと時を……」


慌てて扉を振り返ると、物凄い綺麗な営業スマイルを浮かべて、店員さんがドアを閉める所だった。

いやいやいや、見ててわかるよね?

明らかに、私が楽しいひと時を得られそうな雰囲気じゃないって事!!


ちょっと恨めしいような、縋るような思いで店員さんを見つめたが、小さな音と共に、扉はピッタリと閉ざされてしまった。



……この世に私の味方はいないって事でしょうか?


今日会った人たちが、『全て』ではない事はわかっているけれど、誰1人として私を助けてくれる人がいないこの惨状に、思わず世界から見放されたような錯覚を覚えた。