極度の疲労感を感じ、溜息しか出ない状況の中、流れに身を任せるように、店員さんと春斗さんの後について行く。
すると、目の前に、明らかに他のテーブルと違うスペースが現れた。
一目で見て、VIPルームだとわかるその空間は、薄暗い店内の一番奥に存在した。
広いフロアの一角を四角く切り取るようにして作られた部屋には、店内を見渡せる大きな窓が付いている。
窓の内側には濃紺のベルベットっぽいカーテンがあり、室内にいる人の気分によって、店内と完璧に区切った空間にする事も出来るようだ。
只今は、そのカーテンは開け放たれたおり、窓の両脇に綺麗に束ねられている為、窓越しではあっても、中の様子がよく見える。
その中には、数名の男女が寛いだ様子でソファーに座っていた。
……もしかして、あそこに行くの?
空間が切り離されているっていう事を除いても、ちょっと特別な雰囲気を纏った人たちっぽく見えるんですけど?
顔まではまだはっきりと見えてないけど、なんとなくオーラが違うのだ。
妙に人目を惹くというか……。
コンコンッ。
「失礼致します。役付き様方。ハートのキングとクイーンがお越しです」
私が唾をゴクリッと飲み込んでいる中、若い店員さんが容赦なく、扉をノックして中に声を掛ける。
ゆっくりと開けられた扉の中で、それまで続いていた会話が途切れたのがわかった。
いっそ、気付かずに会話しててくれれば、入りやすかったのに。
中にいるのは、そこまで大人数じゃないから、そんな事は無理だってわかってても、ついそんな事を考えてしまう。
