KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―



「はぁ……」


気のない返事をして、階段の先に見えている鉄製の黒の扉へと目を向ける。

ここで、足取りが重くなってしまうのは、私の日頃の運動不足が階段の昇降運動に影響しているからだけではないだろう。

きっと、赤の他人からみたら、「何、流されてんのよ!」と思わずツッコミを入れたくなるようなこの状況を、自分自身で痛い程感じているから、自然と足も重くなるのだ。



「それに、今日は、桂巳……クローバーのキング以外の連中は揃っているみたいだから、ちゃんと紹介してやれる。心配はいらない」

私の表情が晴れない様子を見て、春斗さんが片眉を器用に上げてから、「ああ」と妙に納得した様子で、ニッコリと笑って私を励ましてくる。




いや、別にそこ心配してないから!!

……というか、キングだ、クイーンだ、ビショップだって言われても、私にはその価値がわからないし、紹介してもらえる事でどんなお得特典が付いて来るのかも予想できない。

もちろん、紹介されない事のデメリットだってわからないし、相手がどんな人物なのかってのも想像がつかない状態なのだ。


そんな状態で、「紹介してやれる。心配ない」って言われたって、何の安心効果も得られない。

むしろ、この訳のわからない『KINGDOM』とかいうお店から、一刻も早く脱出して、この訳のわからない、春斗さんという男と縁を切りたい私としては、いろんな人に紹介される事で、より泥沼にはまっていっているような気がしてならないんだよね。


つまり、紹介される事で、不安材料が増すという構図しか思い浮かばないのが現状なのだ。