「ねぇ、あれって……」
「ハートのキングだ」
「やっぱり、オーラが違うね」
不意に、賑やかな音楽の合間から、こちらに向けられる囁き声が聞えた。
ハートのキングって、春斗さんの事だよね?
目線を上層階から自分の周囲に向ければ、露骨にこちらを窺い見る、視線の嵐を感じる。
男性客からは何処か羨望の、女性からは妙に熱の籠った視線が、私の手を引く男に向けられている。
もしかして、春斗さんって結構有名人?
まぁ、見た目からすれば、思わず視線を向けたくなるようないい男なのは間違いないし、独特の王者然とした雰囲気があるのも確かだ。
だから、そうなるのもわからなくはないけど、それにしても注目を浴び過ぎじゃないかな?
人から向けられる視線というものに慣れてない私は、自分に向けられたものでなくても、何故か凄くドギマギして緊張してしまう。
「ねぇ、あの隣にいる人って……」
「この前来た時に連れてたハートのクイーンと違うよね?」
「また、新しい人に変わったのかな?」
視線から逃れるように春斗さんの足元に視線のを落としていた私の耳に、今度は私自身に向けられた囁きが聞こえる。
春斗さんへ向けられるものと違い、そこには、興味、好奇心、嫉妬、妬み等の、もっとねちっこい感情が含まれているように感じる。
……何だか居心地が悪いんですけど。
ここで、もし私が気が強くで、自身に満ち溢れた高慢な性格だった、きっと、「どうだ?いいだろう?」とでも言うように見せびらかすんだろうけど、生憎小心者の私は、無駄だとわかっていつつも、少しでも小さく縮こまり、目立たなくなろうとする努力をする事しか出来ない。
