「藍花ちゃん、カードを」
春斗さんが斜め上から後ろに向って首を傾げて、私を見ながら声を掛けてくる。
ほぼ初対面の人にファーストネームを呼ばれるのはどうしても落ち着かない気分なる。
感じた違和感に、思わず一瞬だけ眉間に皺が寄ってしまったのは、仕方がない事だと思う。
「……これの事ですか?」
「あぁ、そうだ」
手元に用意してあった、ハートのクイーンのデザインのカードを春斗さんに手渡す。
「城、彼女を今日付けで新しいハートのクイーンにする。名前は灰島藍花さんだ」
「灰島藍花様ですね。ようこそ、クラブKINGDOMへ。当店のゼネラルマネージャーをしております城景次、と申します。ご用の際はなんなりとお申し付け下さいませ」
優雅な動作で頭を下げられ、ニッコリと私に向って微笑んだ城さんに、曖昧な笑みを返す。
折角丁寧な挨拶をして下さって申し訳ないのですが、私は、今日は早くこの場を切り上げて、今後は2度と足を踏み入れない予定なんです。
「ようこそ」されても複雑な気持ちしかわかない状況なんです。
いくら、雰囲気の良いお店でも、この変な状況下では、やはり楽しむ気にはなれない。
それに、春斗さんの行きつけの店なのが確実である以上、彼とは今日この場限りの関係を貫こうと思っている私としては、再度来店する訳にはいかない。
