KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―



蚊帳の外状態だったのに、急に注意を向けられた事に焦り、ビクッと体を竦ませて、私は慌てて春斗さんの陰に隠れた。

別に春斗さんの後ろが安心できる場所だなんて思っている訳じゃないけど、……というか、警戒しないといけない相手そのものなんだろうけど、それでも全く知らない執事もどきの視線から隠れられる場所がそこしかなかったんだから仕方ない。



……あぁ、早く帰りたい。


「そちらの方が新しいハートのクイーンですか?」

ほんの一瞬だけ品定めするように私を眺めた後、元の穏やかな笑みに戻り、執事もどきが春斗さんに、私の紹介を求める。



「何故そう思う?」

「いえ、前ハートのクイーンがKINGDOM追放になったと小耳に挟んだので、もしやと思いまして」


春斗さんの目が一瞬、挑むように執事もどきに向けられる。

けれど、彼はそんな事、気にも留めないような素振りで、普通に春斗さんの問いに答えた。




「……一体、お前の情報網はどうなってるんだ?ついさっき追放にしたばかりだぞ」

「いえ、たまたま耳にしただけですよ。たまたまね」


眉間に皺を寄せた春斗さんに、執事もどきが一切表情を変える事なく、ニコニコと答える。



「……『たまたま』か。お前の『たまたま』は、『常に』だろう?」

「そんな滅相もございません」


わざとっぽく、妙に恭しい仕草で頭を下げた執事もどきに、春斗さんは深い溜息を吐いた。