「ようこそ、KINGDOMへ」
背後でエレベーターが閉まったのを感じたのと同時に、穏やかな笑みを浮かべた、黒のベストを着た男の人が声を掛けてくる。
柔らかそうな長め黒髪を後ろに撫でつけ、隙のない優雅な動作で私達に頭を下げたその人は、『執事』という言葉がとても似合いそうな、そんなイメージだった。
「お待ちしておりました。ハートのキング」
一切姿勢を崩す事なく元の位置に頭を戻すと、彼は春斗さんにニッコリと笑い掛けた。
「あぁ。今日は他の奴等は?」
「ダイヤのキングとクイーン、スペードのキング、ハートのビショップがお越しです」
「あいつ等も暇だな」
「皆さま、お忙しい合間を縫って、息抜きにいらして下さってるんですよ」
春斗さんの呆れたもの言いに、苦笑しながらも執事もどきさんが答える。
「……ところで」
気心の知れた相手との談話といった雰囲気で、少し会話を交わしていた2人だけれど、不意に執事もどきさんが私の方にチラリッと視線を向けた。
顔に笑みを浮かべたままの表情だったけれど、その瞳が一瞬だけ鋭く、警戒するような光を帯びたように感じたのは、私の気のせいだろうか?
