KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―




「お待たせ」


私がVIPルームとやらに連れて来られて三十分程経った頃、小さなノックの音と同時に春斗さんが顔を覗かせた。



女性の服を選ぶの三十分って、男の人にしては掛かり過ぎじゃない?と内心思いつつも、こういった状況になるのは、生憎初めてなので、実際の所、どうなのかはわからない。

ただ、彼の後ろからついて来た店員さんが抱えている服の量が多い事だけは、例え比較対照がいなかったとしても確かだと思う。



「あぁ、髪と顔を直したんだ」

私が座っているソファーに足早に近付いて来た彼は、上体を屈めて、私の顔をマジマジと見つめる。



……会って間もない上に、初対面以上知り合い未満の相手に、そういった態度は失礼な気がするんですが?

まぁ、貴方の場合、会ってからここまで、失礼の連続な気がするから、今更かもしれないけど。




「な、何ですか?顔、近いんですけど?」

屈んだ事で、すぐ傍まで来ている無駄に迫力のある綺麗な顔に、動揺しながら上体を反らすようにして距離を取ろうとする。



「うん。綺麗だ。水が滴っている時も、結構そそる感じだったけど、そうやってきちんと格好を整えると、また別の魅力があるね」

ニヤッと笑った彼に、背筋がゾクリッ震える。

その震えが、彼の色気に翻弄された為に起きたものか、単純に、彼の迫力に慄いたせいなのかは自分でも判断がつかなかった。