「悪いけど、俺が服を選んでいる間、彼女が風邪を引かないようにだけしてやってくれ」
「畏まりました。では、VIPルームの方にお通しさせて頂きます」
「あぁ、頼むよ」
私が口を開く間もなく、春斗さんは店員さんとやり取りを済ませ、さっさとlily crownの服が立ち並ぶブースへと歩いて行く。
お願いだから、ちょっと待って。
一言私にも声を掛けるとか、一応選択しを与えるとか、そういう気遣いの1つ位、私にくれても罰はあたらないと思うんだけど?
思わず、引き止めるように伸ばし掛けた手は、空を掴んだだけで、彼には届かない。
「さぁ、こちらへどうぞ」
取り残され、去っていく彼の後ろ姿を見つめて呆然とする私の背中に、穏やかな声が掛けられる。
明らかに戸惑っている私の姿が見えているだろうに、店員さんはその事に一切触れずに、笑顔で全力スルーを決め込んでいる。
きっと、こういう仕事には、こういう対応が必要な時がある事がよくわかってるんだろうな。
店員さんに対して八つ当たりして、恨めしい視線を向けたい気持ちに駆られる。
でも、結局、きっと私が店員さんでも、同じような対応をするだろうなと思うと、それも出来ずに、私は肩をガックリと落として、彼女の後について行った。
