「彼女の服を一式揃えたんだけど?」
自分の姿を見てすぐに出てきた上に、名乗ってもいないのに、名前付きで声を掛けてきた店員さんに対して、彼は一切動じる事なく、笑顔で対応する。
彼に親指で指された私の方は、明らかなVIP向け対応に面喰って、思わずビクッと委縮してしまう。
……何だか気まずい。
賑わう店内にいるお客さんは、皆、自分の買い物に夢中で、私の事なんか気にしてないのはわかってるんだけど、急に自分のみすぼらしい格好が気になります。
唯でさえ、lily crownは私にとってちょっと敷居が高くて入り難いお店なのに、今の私は全身ずぶ濡れで、化粧だってそれはもう、酷い事になっているに違いない。
朝は綺麗に整えたはずの髪も、今は、一度濡れてそのまま中途半端に乾き始めているせいで、ぼさぼさになっている。
明らかな場違い。
そして、そんな私が、更にVIP待遇を受けている人の連れだなんて……。
うわぁ、明らかに分不相応だ。
「いえ、あの、私は……」
恥しさで頬が赤くなるのを感じる。
今すぐ逃げ出したくて、一歩後ずさろうとすると、すぐに春斗さんの手がそれを引き留める。
「ここまで来て、それはないだろ?どうしても違う店がいいなら、それでも構わないけど、あんまり長時間その格好だと風邪ひくよ?」
ここまで来てって、ここまで半ば無理やり連れてきた人が言っていいセリフじゃないでしょ!!
それは、あくまで、相手に選択肢を与えた人が言えるセリフだっての!!
あんまりな言い分に、げんなりして、脱力をしてしまう。
……もう、いいです。好きにして下さい。
